『シン・ゴジラ』 なぜ、どれだけ話題なの? 観た気になれる考察や豆知識をまとめてみた

話題騒然の映画『シン・ゴジラ~現実対虚構(ニッポン対ゴジラ)~』。多くの人は疑問だろう。おもしろい!とは思ったものの、なぜそこまで話題を呼んでいるか。どれほど話題を呼んでいるか。三度の鑑賞後、考察してみた。

どれほど話題を呼んでいるのかを数で比較

公開から3週目にして動員230万人、興行収入33億円を突破。これだけではピンとこない。どれほど大きな数字なのかを興行収入という軸で比較してみる。

  • 2015年公開の邦画洋画(合計1,136本)との比較。現時点で上から17番目に位置する。どのような作品がどれほどの興行収入を得ているのかを参考までに。
    • 邦画:1位『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』78億円、2位『バケモノの子』58.5億円、3位『HERO』46.7億円。
    • 洋画:1位『ジュラシック・ワールド』95.3億円、5位『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』51.4、9位『ターミネーター:新起動/ジェニシス』27.4億円。
  • 同監督(庵野秀明)作品との比較。最大のヒット作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』は、5ヶ月間の公開の結果、動員382万人超、興行収入53億円を記録。ちなみに、公開後9日目の時点で、観客動員数203万2147人、興行収入は28億円超を記録。

『過去興行収入上位作品』一般社団法人日本映画製作者連盟より引用

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映画『シン・ゴジラ』公式サイトより引用

なぜ話題を呼んでいるのか、ヒット理由とは

ヒット理由という名の魅力(公開時期や同時公開された他作品との比較ではなく)は、あらゆるメディアや評論家が書いているが、一言で表すなら「ポリティカル・フィクションというものを成立させた」という評論家 宇野常寛氏の言葉を借りたい。詳細は評論家・宇野常寛氏が語る『シン・ゴジラ』-この映画は99%の絶望と、1%の愛でできているを。

※ヒットした理由には、先の参議院選挙および東京都知事選挙の開催により国民の政治への関心が通常よりも高まっていることも関与しているのかなと。

あなたが内閣総理大臣ならどうする?全国民に観てほしい映画

日本のあらゆる問題を提起することで「変われよ、政府。変われよ、国民」と警鐘を鳴らしていた(ように感じた)作品。あなたが内閣総理大臣ならどうするか。これまで考えてもみなかった視点をもってほしいと国民に訴えかけているかのようだ。(最近政治について調べ考えているからかもしれないが、笑)ちなみに、政府に関して、実情と映画内で表現されている内容の整合性が気になったので、官僚の友人に確認もした。一部違和感のある箇所はあるものの、使用している言葉も含め総じてかなり忠実とのこと。

そもそも、ゴジラってなんなの? 従来のゴジラに興味がなくてもおもしろい

ゴジラは、災厄の象徴および風刺。初代ゴジラは先の戦争における東京大空襲、原爆(第五福竜丸事件がモチーフ)を暗喩し、本作は3.11の東日本大震災および原発事故を形容している。よって、ゴジラというキャラクターへの興味のなさが気にかかっている人は懸念を解消されてよいかと。

台詞や設定から考察してみた、問題提起(考察その一)

  • 1, 日米政治家トップの年齢差、理想と現実

一定数を占める二世議員の矢口(長谷川博己)が、10年後=50歳弱に内閣総理大臣を目指す姿を理想論のように描いている。また、役割は異なるものの内閣の中での階級が同様に高い、二世議員ではない赤坂(竹野内豊)との対比も伺える。(内閣総理大臣から赤坂への「二世議員は君が苦手なタイプなのではないか」的発言より推測)

ちなみに、歴代内閣総理大臣は、最年少が初代伊藤博文氏44歳、戦後最年少は安倍晋三52歳であり、現状戦後では40代総理大臣がまだいないことからも理想を評していると言えるだろう。一方、カヨコ(石原さとみ)が40代でアメリカ大統領就任を目指しているがこちらは現実的で、42歳が最年少、40代で就任している人が9/44名と20%強も存在する。

  • 2, 固定観念の強さからくる想定できない怖さ

矢口が最初の閣僚会議で「何らかの生物である可能性がある」と提唱するも、赤坂や年配の閣僚たちは「そんなことはあり得ない」と一蹴し聞き入れない。人の想像力なんてたかが知れている前提で物事は考えた方がよさそうだ、現に宇宙人に対する考え方にも差が出ているように。(エレベーターの中での矢口から大臣へ向けた発言「先の大戦では、旧日本軍の希望的観測、こうあってほしいという願望により、国民に三百万人もの犠牲者が出ました。油断は禁物です」が再度警鐘を鳴らしていると推測) 

  • 3, 会議の多さ、関与する人数の多さ

政府および大企業の組織的課題の象徴。緊急時にもかかわらず会議がないと何も物事が進まない状況そのものや、会議参加人数の多さが物語る。会議は想定された事象に対してのみ有効であり、非常事態においては効力が弱まる。今後起こりうる大災害や何らかの緊急事態を念頭に入れた、会議の代替策の模索が必要だ。(一般的な会社・組織では、不要な会議の削減や会議時間の短縮化、関係者に絞った会議の設定などが対策といえるだろう)

  • 4, 東京と地方の差、意識の差

3.11やその後東北と福島で起きた原発事故が、もし東京で起きていたら国の対応は異なっていたのではないか、という問いかけを暗喩。先の熊本地震も同様に。(記者二人の発言「地方は後回しですか」「仕方ない、GDPは東京が全国の17%を占め85兆円」から推測)

個人的には、東京を舞台にした本映画では自分事化しにくいであろう、地方の人がどう感じたか。いや、どう感じる必要があるか(何に課題を感じるか)が非常に重要だなと。東京一極集中ではだめだ、地方創生に一層励まないといけない!という視点で自分事化してほしいがメッセージだったのかな。赤坂の発言では「諸外国に手を借りなければ日本という国を維持できない」と想わせるものがあった。東京一極集中では日本自体を維持するのがむずかしいことを物語っているのかと。

  • 5,世界から見た日本(のリーダーシップの弱さ)

現内閣の政策のひとつである外交(世界の中心で動かす外交)が裏付けとして考えられるが、実際はどれほど深刻なのか。深く知りたいポイントである。(カヨコと飛行機で同席した同僚の「日本でも変われるんだな」的発言や「まさか日本が外交でうまくやるとはな」的発言から推測)

  • 6, 対アメリカへの考え

カヨコの性格や英語力が象徴的で海外メディアでの批判意見は当然ながらあった。英語力は特に国内でも批判意見が寄せられていたが、監督には敢えての考えがあったはず。実際は何を伝えたかったのか。5と同様に深く知りたいポイントである。本作は「政治」をリアルに伝えているため、かなり忠実だったと解釈。

  • 7, ゴジラと人間(政治家)の覚醒の速さの差

ゴジラが人間よりも速い段階で変貌を遂げていく姿がなんとも皮肉。ゴジラが早々に第四形態まで進化を遂げていくなかで、政治家の意識は緩やか変化(進化?)していく。ゴジラ出現時は通常の省庁間の縦割りや決断力に欠けた大臣が象徴的だったが、次第に従来の省庁間でのしがらみを捨て一致団結して物事を迅速に決めていく様子が最たる例だ。カヨコの言動(心境)の変化も同様の速度を表しているように思う。人間への期待の裏返しというか皮肉で、(変わってほしい)理想と(なかなか変われない)現実を最も表現しているように感じる。

  • 8, 現実対虚構(ニッポン対ゴジラ)

サブタイトルは皮肉のひとつで、現実=ゴジラ、虚構=(映画内での)ニッポンを示しているのではないかと解釈。現実のようにこのままニッポンが(人間が)変わらなければ、映画のように解決していく姿が虚構になってしまうよ、と訴えかけているように。相当穿った見方かもしれないが、苦笑。

  • 9, 放射能問題

ゴジラと変貌を遂げてまで放射能の危険性を訴えようとした日本人科学者の牧悟郎元教授。(最終シーンの尻尾アップは牧元教授の人体と仮説)そもそもなぜ政府は牧元教授の訴えに耳を傾けなかったのか。答えは、御用学者ではなかったからだろう。今後は御用学者ではなく様々な可能性をもって意見を聞く耳をもとうよ、という訴えだろうか。(御用学者三名と内閣総理大臣が、不要に終わった有識者会議を行っているところから推測)

※もはや妄想の領域だが。牧元教授の「わたしは好きにした」という遺書通り、最初からあの規模の破壊行為をもって、政府や国民の危機意識を高めようとしていたのではないかと。(遺書に解決へのヒントを加えることで政府の対応速度?や能力に少しの期待を寄せた上で、あの規模の損害になるように自ら設定していたのではないかと推測。それくらいしないと日本は動かないという意図があると解釈。そうだとすると半端ない皮肉)

  • 10, 平和ボケ大国日本の象徴

鬼気迫るなかで人間はどういう行動を取るか。命よりも何を守るというのか。大切なものだけ守ろうよ、という訴えにみえた。国としても緊急時にの対応を国民に強く訴える必要があるということなのかと。(ゴジラが近くまで迫りくる中で、家にいた親子三人が荷造りしている最中にマンションが倒壊するシーンから推測)

個人的に問題意識を強く感じた点(考察その二)

  • 11, 政府と国民との距離

前半のシーンでは言葉がすっと頭に入ってこない人が多かったのではないだろうか。理由は(官僚以外の)一般人が日常的に使う言葉ではない(+早口だ)からだ。普段も同様に、国民にはすっと入ってこない敢えてのわかりにくい言葉で説明していることで、国民の理解が追いつかず、溝が深まっているのではないかと考える。わかりやすく伝えることに特化した広報活動が必要だと感じた。(担当したい、笑)

  • 12, 危機意識

災害対策や他国からの攻撃、不明生物への対策状況が気になる。米国政府では、UFOや宇宙人など地球外生命体を目撃した時の公式な通報機関を発足させているが、日本にはあるのかな。防衛省が管轄しているはず。※国会会議録検索システムにて検索可能。

  • 13, 政治家の責任のとり方

終盤で矢口がカヨコに向かって「政治家は自らの進退をもって責任を取る」的発言をしている。現実でもそうだ。ただ、失敗したら交代すればいい的発想(や仕組み)、現状に甚だ疑問を抱く。そんなことを繰り返していたら、優秀な政治家が育ちにくいし、スピード感も鈍るのではないか。加えて、交代はあらゆるコストの無駄ではないか。一度委ねたら任せればいいのになと。

ちなみに、アメリカの大統領は1789年からはじまり、44人目がオバマさん。一方、日本の内閣総理大臣は約100年後の1885年からはじまり、62人もいる(安倍さんのように複数回なる人も数人いてこの数字)。背景は色々とあるはずだが、さすがにこの差を見れば一目瞭然。日本人のどういった国民性がそうさせるのか。

  • 14, 政府、省庁組織のスクラップ・アンド・ビルドが必要だがその方法とは

そもそも映画内の本対策は失敗だったのかという疑問。失敗前提の話をしているが、初盤の被災地見学時に赤坂が「完璧ではないが、最善は尽くしている」という発言をしているように、現体制においては最善は尽くしている。(予測可能なことに対して対策していないという意味では罪深いかもしれないが)本対策が失敗と仮定するのであれば、以後成功させるには、現政府、省庁組織のスクラップ・アンド・ビルドが必要だ。どうすれば実現できるのか。誰が仕切ればできるのか、既にこういった議論が広げられているのか、既に議論があるとすればどういった理由で実現に至っていないのか。興味深い。※大前提として、官僚は超優秀だし素晴らしい人たちだとわたしは考えている。

違和感を覚えた点(考察その三)

  • 15, 政治家の自己保守の象徴?

「政府に恥をかかせる気か」という内閣総理大臣の発言。記録に残る会議といえど、政府自身が公にしなければ(国民への公式発表の内容に加えなければ)政府以外に広まることはないはずだ。にもかかわらず、本言葉を使用する意味は、政治家の自己保守を象徴したかったのかもしれない。政府にではなく「現政府の◯◯として身をおくわたしに恥をかかせる気か」といった意味なら少しだけ理解ができるがそれでも若干の違和感がある。その上で、内閣総理大臣から国民への発表時に「万が一にも(ゴジラは)上陸しない」と誤った発言をしている点が滑稽で監督の意向が伝わる。

  • 16, 言葉の使い方(スクラップ・アンド・ビルド)

「スクラップ・アンド・ビルドでこの国は立ち上がってきた」という赤坂の発言。ゴジラ(戦争や災害)は能動的に廃棄したのではなく受動的に被害を被ったことで、立て直しが必要となったのであり、本来能動的に廃棄する際に使用する言葉である本単語は適切ではない気がする。

※スクラップ・アンド・ビルドの意味:老朽化して非効率な工場設備や行政機構を廃棄・廃止して、新しい生産施設・行政機構におきかえることによって、生産設備・行政機構の集中化、効率化などを実現すること。

興味深い点(考察その四)

  • 17, ゴジラには善悪はなく、人間が悪い

モチーフがモチーフなだけに当然なんだが、ゴジラ自体は善でも悪でもなく、ただそこにあるものとして描かれていたのが印象的。人間を悪としている。(尾頭ヒロミの発言「一番怖いのは人間ですね」から推測)SFは宇宙人が悪い的な描き方をしていることが多いので興味深い。

  • 18, 過ちを素直に認める誠実さから成る人間関係の構築

巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)事務局設立間もないタイミング(人間関係が構築されていない状況下)で同僚の発言を否定する場面があった。後に、否定した安田の想像力不足(誤り)だと判明した際に、安田が素直に「ごめんなさい」と謝罪した場面が印象的だった。この場面で優しい笑みを浮かべた人は多かったのではないだろうか。その後人間関係ができていき、省庁間の縦割りを気にせず力を合わせていく中で巨災対のがんばりが引き金となり功を称しゴジラ退治? に成功するわけで。素直に認め謝ることの大切さをさりげなく物語っていたように思う。大人になるとなかなかできないんだよね、素直になることが。

  • 19, 自衛隊の活動

普段知らない世界を目の当たりにできる点が興味深い。自衛隊の人、そのご家族にはぜひ観てほしいなぁ。お父さん、お母さんのがんばりを知れる数少ない機会。

その他(豆知識、聞き慣れない言葉)

  • 20、登場人物名

庵野秀明氏の奥方である安野モヨコ氏の作品から一部由来している。エンドクレジットに安野モヨコ氏の名前あり。

  • 21, レッドノーティスの意味

Red Notice、国際刑事警察機構が加盟国の申請により発行する通知。その国で逮捕状が出ている被疑者などについて人物を特定し、発見したら手配元の国に引き渡す方向で協力するよう各国に要請するもの。(カヨコから牧元教授を探してほしいと依頼を受けた後、警察庁?にて牧元教授の情報が入った袋を渡すシーンにて言及)

  • 22, 紙爆弾の意味

聞き流した人が多いかと思うが。省庁間で議論する際に大量の紙を投げつけるようにやりあう様子を指す単語。現在はあまり見ないとのこと。(廊下で三人の官僚が早口で話しているシーン(二度目)にて言及)

  • 23, 内閣官房副長官

キャリアが一名、国会議員が二名で構成される。矢口は国会議員の内の一人である。案外、矢口が国会議員の一人であることを理解していない人が多いのではないかと思ったので記載。

  • 24, キャスト

エンドクレジットを観て「え、どこにいたの? 」と思った人が多そうな人をいくつか。前田敦子:(冒頭)トンネル内にいた女性、野村萬斎:ゴジラ(の動き)役。KREVA:自衛隊関係者(橋の下敷きになった人?)。

以上。長すぎるね。結局、監督は何を伝えたかったのか。正直、作り手にしか本意はわからない。だが、自分なりに現状を咀嚼して考えて課題に対して行動に起こすことが大切だと改めて。自分が内閣総理大臣ならどうするだろう。感情移入はなく頭で愉しめる作品だね。

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そういえば、パルコのつくりこみ、すごかったなあ。